姑獲鳥の夏 京極夏彦

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

あらすじ

妊娠20ヶ月を超えて未だに子供が生まれていないという噂の女性。
そして、密室から消えたといわれている男性。
そんなミステリーに京極堂、関口、榎木津、木場らが関わる。

感想

アンチミステリ*1
京極夏彦がミステリ作家かどうかというのは、問題であると思うが、それは京極の作家紹介で書くことにして、ここでは姑獲鳥の夏をミステリから見ることをメインに書いていきたい。
といっても語ろうにも非常に難しい。
京極堂の言葉にあるように、不思議なことなど何もないのである。
探偵役である京極堂が、事件を解決するというよりも、関係者をできるだけ救うというスタイルで挑んでいる気がするのが、心地よいかもしれない*2
やはりミステリとして語るには、ネタバレをせざるを得ない気がする。

小説として

妖怪や脳みそや意識などなど
ミステリ以外の要素もふんだんに盛り込まれている。
というか厚いしね(笑)
ミステリとして見る分には、もうちょっと減らせるんじゃ?
とも思ったりするわけだが、小説としてはこんなものだろう。
知人曰く。
事件なんかよりも、京極堂が語る内容が楽しいそうな。

ネタバレ含む

探偵役は京極堂だが、同時に探偵として榎木津が存在する。
この榎木津は、他人の記憶が見えるという設定である(ちなみに設定についても受け入れやすいよう、作中で説明が加えられている。vv_aは納得してしまったけど、いかが?)
ただしこの榎木津事件は解決しない。ただ、他人の記憶がみえるというだけである(その事で現実に影響は与えるが)
個人的にこれが面白く感じたのだが、探偵が他人の思惑を知っているだけではどうしようもないのである。

ネタバレ

結局事件はなにも不思議がなく“あるがまま”であった。
ネットで見たところ、この解決については賛否両論のようだが。
個人的にはOK。
ちなみにトリックというよりも、ミスディレクション(ミスリード?)だよねこれ。

*1:の意味が実はよくわかってないけど……

*2:京極堂、榎木津の関係については語りたい気もする。

セリヌンティウスの舟 石持浅海

セリヌンティウスの舟 (カッパノベルス)

セリヌンティウスの舟 (カッパノベルス)

あらすじ

かつて海で遭難した六人のダイバー。
その苦難を乗り越えた六人は、信じられないような強い信頼関係で結ばれることとなる。
以後も六人はともにダイビングを楽しんだ。
そんなダイビングを終えたある日、メンバーの家に泊まりみなで酒を飲んだ。
主人公・児島克之が目覚めると、米村美月が死んでいた。
警察は自殺と判断する。
しかし、メンバー間の信頼のために、美月の自殺を疑い。
メンバーへの信頼のために、内部に犯人がいることを疑わない。
はたして、美月の死は自殺なのか?
セリヌンティウスとは走れメロスにおける、メロスに変わって王様に捕まっていた人。

感想

扉は閉ざされたままに続き、奇妙な作品*1
今回もストーリーはほぼ部屋の一室のみで語られる((一応コンビニ買い物行くとかあるか(笑)))。

この作品も扉〜同様議論によって成り立っている。
しかしその方向性は異なっている。扉〜が扉を開ける、開けないという対立的な議論であったのに対して、本作では美月の死という謎(自殺ならなぜ死んだか、他殺なら誰がやったか)の解明に対してであり、さらに絶対の信頼関係があるという前提のもとに議論が進められている。これは前提であるために、論理として疑うことは許されない。
扉〜の探偵と犯人の議論が戦いであったのに対して、セリ〜ではみんなが力を合わせて答えを見つけようという敵がいない議論である。
そういった扉〜との対比を考えながら読むと、また違った楽しさがあるのではないか。

補足

本作は扉〜以上に、なんでこいつらこんな話し合いしてるんだ? という作品かもしれない。でもvv_aは好きなんです。
前提として互いに信じあっているという事を受け入れる、というのはなんだか偽善っぽく感じられるかもしれない。だがvv_aとしては読んでいてそういう感じはうけず、すがすがしさを感じたぐらいだ。
走れメロスはよく知らないので、関連はなんともいえない。
それと、解決等に関しては扉〜以上に納得できないかもしれない。
vv_aとしてはその辺はオマケぐらいにしか受け取っていないので、怒ったりはしなかった。


というか、扉〜、セリ〜の比較は別にやろうとしてたのに……。

*1:vv_aは、扉〜〜とセリヌンティウスの舟が対となる作品な気がする。この二つを並列に論じてみたいと思っている

扉は閉ざされたまま 石持浅海

扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)

扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)

あらすじ

倒叙
久しぶりに開かれる大学の同窓会。
それは成城の高級ペンションで行われた。
その席において伏見亮輔は後輩の新山を殺害し、密室を作る。
新山は不在だが部屋の鍵が閉まっているため、新山が欠けた状態で飲み会は始まる。
部屋の鍵を開けようと提案する優佳、それを阻もうとする伏見。
他の四人を陪審員として、優佳と伏見の言葉による戦いが続く。

感想

奇妙な作品。
倒叙物なので犯人は最初に提示されている。
といっても、探偵が事件を解決する、その犯人である人間をじわじわと追い詰めるという作品ではなく。
議論の力点が犯人が誰かではなく、新山が死んでいる(犯人だけが事実として知っている)部屋の鍵を開けるか否かという議論に費やされる。
その議論もあらすじで書いたように、探偵役の優佳、犯人の伏見が(伏見は立場を明かさないものの)、扉を開ける(優佳)、開けない(伏見)という立場に分かれ。
一見六人が開けるか開けないかについて議論をしているようだが、実質伏見、優佳以外の四人は伏見、優佳の言い分のどちらがより正しいらしいかを判断する存在として配されていると考えられる。
こう言った意味で、あらすじでは陪審員という言葉を使った。
ここで面白いのは、四人の陪審員を説得するという意味で伏見・優佳の議論が論理性よりも説得力を重視していると思われる(気のせい?)。
これは現実にも多々あることなのだが、必ずしも論理が人を説得するわけではない。
論理というのは結局のところ、聞き手側に受け入れる心構え、理解力を要求する。これは現実的には非情に高い要求である。
よって人を説得するときに重視されるのは、論理よりも説得力(正確には論理+説得力だろう)である。
例をあげれば、
嫌いな人間が理屈っぽく話す内容よりも、尊敬している人物がなんの論理の裏付けもなく言った言葉のほうが一般的に人は受け入れやすいんじゃないだろうか?
そう言う意味で、この作品中では論理として理詰め一辺倒というよりも、人間の感情的な部分で説得してくる(広く捕らえれば感情も論理となりうるだろう)。
そんな探偵と犯人の200ページに渡る駆け引きが楽しい作品である。


まあ読む人によっては、ぐちゃぐちゃ言ってないで、扉開けろよ!
といった感じだろうが、vv_aみたいにこういう会話に面白さを感じる人は、ミステリ好きには比較的いるんではなかろうか?


あとキャラクターの行動が納得できないとか、キャラクターに魅力を感じないって人もいるかも。
vv_aは全然OK。むしろ愛せます(笑)

以下ネタバレ、少なくともネタのほのめかしは含みます。未読なら読まないことが望ましいです。下に行くほどネタバレ度が上がっていると思います。

vv_aとしては、この作品が名作であることは疑っていないのだが、いくつかの点で不満がある。
さすがにう〜む、と思う部分を指摘しておく。
犯人が扉を開けるのを防ぐ理由がいまいち納得できない。
犯人は扉を開けさせたくない
これを前提とするなら文句はない。
この作品では一応扉を開くのを妨げようとした理由が提示されるのだが、その理由が受け入れがたい。
むしろ、犯行時間がいつだかわからなくするためという理由の方がましな気さえする。
個人的には、扉を開けさせたくないというのは前提として読んだ。

ミステリとしての“面白さ”

著者の言葉にもあるように、
この作品では密室が開かれずに物語が終る(正確には開かれた所で作品が終る)。
この試み自体、面白く感じたのだがどうでしょう?
あるいは
犯行が発覚せずに(死体が発見されずに)作品が終る。
犯人は当然新山が死んでいることを知ってるし、探偵・優佳もほぼ確信している。他の人達はどうなのか不明(結局脇役だし)。
これも試みとして面白くないでしょうか?

これらのことから、密室自体がメインでなく、殺人事件自体がメインでもないという、一種のアンチミステリ*1と言えるかも。
密室なんて関係ない、殺人事件なんて関係ない。
ただこの議論に勝つ!
そんな風にさえ見える、二人のバトルが面白いとvv_aは思っています。

*1:vv_aはアンチミステリの意味がわかってない可能性高い

石持浅海

作家経歴

1966年生まれ。1997年、『本格推理⑪』に短編「暗い箱の中で」が掲載された。その後も『本格推理』に二度短編が掲載される。

2002年「kappa-one」第一弾に選ばれた『アイルランドの薔薇』で長編デビュー。

作品

主な著書
アイルランドの薔薇
月の扉
水の迷宮
BG、あるいは死せるカイニス
扉は閉ざされたまま
セリヌンティウスの舟

個人的所感

聯愁殺 西澤保彦

聯愁殺 (ミステリー・リーグ)

聯愁殺 (ミステリー・リーグ)

あらすじ

連続殺人が起こっていた。犯人に狙われたものの、なんとか助かった梢絵。
梢絵の証言から、犯人らしき人物はあがったが、その人物は消息不明となっている。
自分が狙われたということに恐怖を感じる梢絵のために、担当刑事はミステリ作家、私立探偵社の経営者、犯罪心理学者などを集め、会合が開かれた。
彼等はそれぞれが持ち寄った証拠をもとにさまざまな推理を繰り広げる……

毒チョコレート事件

アントニイ・バークリーという作家の有名な作品。
vv_aも確か読んだことがあるはずだけど、随分前でうろ覚えなので、以下の文章では間違いがあるかもしれない。読み次第修整します。ちなみに聯愁殺を読んだのも結構前だったりします……。
内容としては、何人かの人間が順番に事件の解決を述べ合うというもの。多重解決なんて言葉で呼ばれることもあるのかな?
よくOO(作者の名前が入る)版毒チョコ。なんて書き方をされる。

感想

西澤版毒チョコ、かつミッシングリンク物。
リピートのところでも書いたけど、これもミッシングリンク物としてvv_aが知る中ではベストの解決。
話の流れとしては
誰かが事件の推理を述べる

それについて反論などを述べる。

誰かが事件の推理を述べる

それについて反論などを述べる。


というもの。
作品中には推理がたっぷりと溢れている。
推理としては、一つずつ細かく積み上げていくというよりも、多少妄想的とも言えるような飛躍した推理を持ち出し、それを論理で補強していくという感じ。
作品はほとんど推理と議論によって成り立っているため、そういう部分が好きじゃない人は読んでもあまり面白くないかと。
謎としては当然ミッシングリンク。最初に書いたように解決は衝撃的な物であります。

考えた事

主人公(三人称視点の人物)の梢絵がミステリ好き的な人間でない事から、ミステリ的解決に不満をもつという設定にされている。梢絵の証言から犯人はほぼ確定されていて、ただその動機が謎というのがこの作品の状況。
それに対してミステリ的解決をつけると、どうもお話みたいになってしまうし、実際の事件の当事者にはバカにされてるように感じるんじゃないか?
普通ミステリでは事件の解決がメインであって、動機はときによっては必要とされない。こうやって動機だけを取り上げて考えると、破綻が見えてくるのだろうか? どう思うかは、実際に読んでもらいたい。


あまり熱意は感じられないかもしれませんが、名作です。

西澤保彦

作家経歴

1960年高知県生まれ、米エカード大学卒業後、高知大助手などを経て作家に、「愁殺」で第一回鮎川哲也賞最終候補。95年に解体諸因でデビュー。

作品

解体諸因 ☆*1
完全無欠の名探偵
七回死んだ男 
殺意の集う夜 
人格転移の殺人 
彼女が死んだ夜 ☆
麦酒の家の冒険 ☆
死者は黄泉が得る
瞬間移動死体
複製症候群
仔羊たちの聖夜 ☆
幻惑密室 #*2
スコッチ・ゲーム ☆
ストレート・チェイサー
猟死の果て
実況中死 #
ナイフが町に降ってくる
念力密室! #
黄金色の祈り
夢幻巡礼 #
依存 ☆
なつこ、孤島に囚われ。 **3
転・送・密・室 #
謎亭論処(めいていろんど) ☆
夏の夜会
異邦人 fusion
両性具有迷宮 *
聯愁殺
人形幻戯#
ファンタズム
リドル・ロマンス
神のロジック・人間のマジック 既読
笑う怪獣
黒の貴婦人☆
いつか、ふたりは二匹
方舟は冬の国へ
生贄を抱く夜 #
パズラー 既読
腕貫探偵 市民サーヴィス課出張所事件簿 既読

個人的所感

本格ミステリとSF的な設定をあわせた作風

*1:☆は匠千秋シリーズ

*2:#は神麻嗣子シリーズ

*3:*は森奈津子シリーズ